シャクジの森で〜青龍の涙〜
ぐるぐると回る渦の中に、ぐにゃぐにゃに歪んだ神殿が呑みこまれていき、いつの間にかエミリーは白い霧の中に佇んでいた。

周り中真っ白で先も見えづらいけれど、脚はふわふわと草を踏むような感触がある。

以前入り込んだ暗闇の中に似ているけれど、状況が違っている。



「まさか、これは谷の中、なの?」



信じられない思いでいると、遠くの方から声が聞こえてきた。

途切れ途切れに聞こえるそれは、なんだか歌のよう。

エミリーは耳を傾けているうちに、ハッと思い出した。

あの宴の夜に聴いた歌声に似ていることを。

あのときは、会場で歌が披露されているとばかり思っていたけれど。



「ここから聴こえていたのかしら・・・」



手を、す・・と差し出せば、指先が霧の中に溶け込んだように見えなくなってしまう。


エミリーは意を決して、手探りでゆっくりと進んだ。

ここが谷の中ならば、もしかしたら、アランの居場所を突き止める手がかりになるかもしれないのだ。

手探り足探りでそろそろと進んでいくと、霧が晴れていくのと同時に歌声がはっきりとしだし、佇む人が見えてきた。


白い衣を着て、空を見上げ、一心に歌を歌っている。

柔らかな歌声が空気を震動して響いている、何て素敵なんだろうか。

やがて歌が終わると、その人は、ダメだわ、と呟いて顔を覆ってしまった。



「あの、すみません。あなたは、リシェールさんですか?」



ころ合いを見て呼び掛けると、パッと振り向いたその人は、とても驚いた表情をしていた。

リシェールによく似ているけれど・・・。



「いいえ、ちがいます。私は、ミアータです。というか、貴女はどうやってここに入ったのですか?」



ミアータのエミリーを見る目が警戒色を帯びていく。



「え?どうやって・・・って?」



エミリーが改めて周りを見ると、そこは、紙で作ったようなフサフサとした飾りで四隅を囲まれた、

一種の結界のような場所だった。

二つのかがり火が点されてあり、床も板ぶきで、前方を見れば黒々とした山があり、後方を見れば大きな扉がある。

エミリーは、桟橋のようなところに立っていたのだ。



「・・・いつのまにか、です」

「いつのまにか?ふざけたことを言わないで!貴女の目的はわかっているわ!」



エミリーとしては正直に答えたのだけれど、逆鱗に触れてしまったらしい。

どうしよう?とおろおろとしながらミアータと向き合う。
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