シャクジの森で〜青龍の涙〜
「えぇ、そうなんです」

「本当?・・・ま、いいわ・・・貴女は、変な人ね。でも、悪い人じゃなさそう。こんなに笑ったの久しぶりだわ」

「わたしも、ひさしぶりです」



貴女も?偶然ねと言って笑いすぎて出た涙を指先で拭い、ミアータは床にぺたんと座りこんで空を見上げた。

エミリーも隣にちょこんと座って、同じ様に見上げる。


今は夜。

本当なら満天の星が瞬き、綺麗な月が浮かんでる時間だ。

けれど、この空は薄い雲に覆われていた。



「今日は、くもりなんですね・・・」

「貴女は本当にこの国の人じゃないのね。今日だけじゃないわ。ここのところ毎晩なの。そこの風の谷に風が吹かなくなって、それ以来ずっとなの」

「どうして、風が吹かなくなったんですか?」

「・・・多分、私のせいだわ」



ミアータは膝を立てて抱えるようにし、ぽつりぽつりと話し始めた。



「私、歌うことが好きなの。自分の声も好き。貴女は?」

「わたしも好きです。聴くのも歌うのも。ミアータさんのように上手くないですけど」

「ありがとう。貴女の声も可愛くて私は好きよ。・・・でも、もしも、歌が歌えなくなったらどうする?一生声が出なくなったら。それが、自分で声をつぶさなくちゃいけないとなったら、貴女ならどうする?」



その、可愛い声がなくなるのよ?と、ミアータは切なそうに問いかける。



「自分で、つぶすんですか・・・?」

「巫女の家系、スヴェン家の宿命なの。歌を歌えるのは巫女に選ばれた者だけ。それ以外の者は18歳になったら、薬湯を飲んで声をつぶさなくてはいけないの。そんなの、耐えられない!私には出来ない!」

「ミアータさん・・・」



エミリーは思い出していた。

夢に出てきた女性たちの声が掠れていたことを。

あれが、ミアータの言うようなことでつぶれたのなら、しきたりで決められてるとはいえ、とても辛くて哀しいことだ。



「わたしにも、出来ません。巫女は、どうやって選ぶのですか?」

「・・・これよ」



ミアータは首に掛けている紐を外して手に取り、エミリーに見せた。てのひらの上には、雫の形をした透明な石が乗せられている。

でも、よく見ると底の部分に当たる丸い部分が、刃物ですっぱりと切られたように欠けていた。



「これは、青龍の涙石。巫女候補が二人以上いる場合に、これを候補に持たせるの。選ばれた者が手にした時、これが青色に輝く。あの日、この石が選んだのは姉さんだったわ」
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