シャクジの森で〜青龍の涙〜
ミアータは涙石を首に掛けて大切そうに胸元に仕舞うと、再び話し始めた。


「私は15才。姉さんが18才だった。石が光って姉さんはすごく喜んだわ。大好きな歌が歌えるって。嬉しいって。歌を習い始めてからは毎日楽しそうで本当にイキイキしてた」


ミアータの瞳が、ここではない何処か遠くを見るように細まる。


エミリーの脳裏には、夢で見たリシェールの姿が浮かぶ。

とても幸せそうで、歌うのが楽しくて仕方ないという感じだった。

あれは、まさに巫女に選ばれて間もない頃だったのかも。

でも、その時のミアータは――――



「あなたは、哀しかったわね?」



膝を抱えるミアータはこくんと頷いて、脚の間に顎を埋めるようにして縮こまった。



「悔しかったし羨ましかった。巫女を断ればいいのにって何度も思ったわ。だって、城の王子様が何度も求愛に来てたことを知ってたもの。美しさも何もかも、私の欲しいものを全部持ってる。だから、姉さんにあたったわ。喧嘩も沢山したの。でも姉さんは、沈んでいた私の気持ちを上げようとしてくれた。仕事を手伝ってくれたり、好きなお菓子をくれたりして。でも私は、優しくされればされるほど惨めになったの。放っておいて欲しかった。そんなことも分からない姉さんが、大嫌いだったわ」



“ミアータは、自由なの。巫女には許されないことが、貴女には沢山出来るのよ?それはとても素敵なことだわ”



ミアータは膝の中から顔を出してぎゅっと目を閉じ、胸にある涙石を服ごと掴んでポツリと言った。



「だけど、もっと仲良くしておけば良かった。あんなことになるなんて、全然思ってなかったもの・・・」



エミリーは、辛そうに眉を歪めているミアータの背中にそっと手を置いて、優しくさすりながら続きを待った。

胸にあるものを全部吐き出して貰えるように。

静かに。



「あの時も喧嘩をしたの。『姉さんなんて、いなくなればいいのよ!』私は外に飛び出して泉へ行ったの。ほとりに咲く花を眺めて清らかな風で頭を冷やして、迎えに来てくれた姉さんと一緒に戻る。それがいつものことなの。でもあの日は盗賊に出会して――――いつもなら人を呼びにいくのに、頭に血が上ってた私はつい言っちゃったの。『何をしているの!!ここは、神域よ!!出ていきなさい!』って。そしたら、盗賊は刃物を出して襲い掛かってきたわ。ぎらっと光る剣が怖ろしくて脚がすくんで動けなくて、叫び声も出なかった。そしたら『ミアータ、危ない!』って、すごい力で突き飛ばされて――――気づいたら、姉さんが血だらけで倒れてたの・・・・それでも私は叫び声が出なかった・・・何も・・何も、出来なかったの・・・何も」
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