シャクジの森で〜青龍の涙〜
ミアータはその時のことを思い出したのか、震えながら両手で顔を覆った。

あまりにもおびえた様子で、エミリーは肩を抱くように腕をまわした。



「何もできなくて当然です。怖いのですから。リシェールさんは、その時に命を落としたのですか?」

「ううん。これのおかげで傷は浅かったの」



そう言ってミアータは再び涙石を胸元から出しててのひらの上に乗せた。

すっぱりと切れた部分にかがり火が当たって、チカッと小さな光を放つ。



「それから騒ぎを聞き付けて来た見廻りの男の人達が運んで、すぐに手当てをしたの。でも、姉さんは何日も生死の間をさまよったわ。傷は思ったより浅かったけど熱が下がらなくて・・・。そんなときだったの。城の王子様から使いが来たのは」



そう言って、ミアータがぎゅっと涙石を握ったそのとき、すとん、と何かが落ちたような音がし、エミリーが振り返ると猫がテテテとこちらに向かって歩いて来た。

それは、あの夢の中でみた子で―――やっぱりそうなんだと思うやら、驚くやら、エミリーが複雑な気持ちを噛み砕いていると、猫はミアータの足元で丸くなった。



「その人は城付きの白魔術師だって言ったの。『特別な薬です。これを毎日飲ませてください。リシェール様はすぐに回復されます。でも、決して、貴女以外の方に見られたり、この薬の存在を知られてはなりません。効き目がなくなってしまいますから』強力なまじないを込めてあるっていうの。持ってきたおばあさんは凄く胡散臭かったけど、王家の紋章付きのとても立派な入れ物に入っていた。だから、信用できるものだと思ったの。それに、治るなら、何にでもすがる思いだった。だから・・・」



ミアータの様子が沈んでいき、足元にいる猫はムクッと顔を上げて彼女をじーっと見た。

エミリーも、肩を抱く手に力がこもる。



「・・・治らなかったのですか?」

「違う、治ったの!みるみる回復したわ!それはもう皆が驚くくらいに!傷あともなく綺麗に治って。でも・・・元気になった姉さんがここで歌おうとした途端・・・声が・・・・」

「掠れていたのですか?」



言い淀んだ様子なのを受けてエミリーが訊ねると、ミアータはこくんと頷いた。



「それまでは普通に綺麗な声で話していたの。なのに、急に。そんなのおかしいでしょ?だから、あの薬のせいだって思った。それしか考えられなかったもの。何日も歌われないから、風の神は怒ったわ。大風が吹いて街をめちゃめちゃにしたの。その数日あと、姉さんは泉に身を投げて――――・・・私のせいなの!姉さんが刺されたのも、声を失ったのも、風の神を怒らせてしまったのも、全部!・・・全部、私が・・・皆も、私が声を奪ったって思ってる」



だから、責任を取れって―――
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