シャクジの森で〜青龍の涙〜
そう言ったきり、涙石をぎゅっと握って俯き肩を震わせた。

エミリーは優しく背中を撫でながら、掛ける言葉を探していた。

すると、あるフレーズが、頭にふと浮かんできた。

同時に、身の内から微かに聞こえてくる声を感じ、瞳を閉じて集中して耳を傾ける。

そして、小さく頷いたあと、ミアータの方を向いた。



「ミアータさん。『あなたのせいではありません』リシェールさんは、そう言っています」



エミリーの言葉にパッと顔を上げたミアータの見開いた瞳から、涙がはらはらとこぼれ落ちる。



「貴女は何を言っているの?そんなわけないでしょ?いい加減なこと言わないで!何も知らないのに!」



信じられない!と、首を横に振って激しく憤るミアータに、エミリーは、そんなことはありません、と言いながら足元で丸まってる猫を指差した。



「証明しましょう。この子の名前は、ミシェルです。二人の名前からとって、ミアータさんが名付けました。あなたが7才、リシェールさんが10才のときです。泉のほとりには、二人で埋めた内緒の宝物があります」

「貴女、どうして、それを?姉さんと私しか知らない筈なのに・・・いつ、聞いたの?」



ミアータの瞳が、判断を迷うように揺れる。

一度も見たことがない人なのに、いつ、リシェールと仲良くなったのか、頭の中が混乱していた。



「信じてもらえないかもしれません。でもわたし、2~3日前くらいにリシェールさんにお会いしたんです」

「嘘!3日前なんて、姉さんはこの世にいないもの!ふざけたこと言わないで!」



眉を歪め怪訝そうにするミアータに対し、エミリーは静かに語り続けた。



「リシェールさんには2回会ってます。初めて会ったとき、リシェールさんは暗闇の中で泣いていました。わたしが話し掛けたら、涙を流しながらこう言ったんです。“あなたのせいでは、ありません”って。何度も何度も繰り返して。掠れた声を一生懸命絞り出して。この“あなた”は、ミアータさんのことです」

「う・・・そ・・・。そんなの嘘よ。姉さんは私を恨んでる筈だもの」



ミアータは、違う違うと首を横に振り続ける。

にわかには信じられないのだ。



「いいえ。悪いのは、盗賊なのです。リシェールさんはあなたを恨んでいません、自分を責めないで下さい。いいですか?『あなたの、せいでは、ないのです』」




エミリーは、身の内から聞こえる声と同調するように、最後の言葉をゆっくりと声に出した。


リシェールの声が重なったように聞こえ、ミアータはハッとしたように顔を上げた。

エミリーの微笑みに、リシェールのそれが重なる――――
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