シャクジの森で〜青龍の涙〜
その顔はミアータに似ていて―――


「――あなたは、リシェールさんですね?」



首が上下にゆっくり動き、唇が緩やかな曲線を描く。

以前暗闇で会ったときよりも姿形がハッキリしていて、涙はなく落ち着いた雰囲気を持っている。



『――ありがとうございました――』


リシェールは唇の部分をほわほわと動かし、ゆっくりと言葉を紡いだ。

その声はもう掠れていなくて、さっき身の内から聞こえた声と同じものだった。



『――心残りが、ひとつ、消えました――』

「ひとつ、なのですか?まだ何かあるのですか?よかったら、話してください」

『―――はい、私は・・・』



エミリーは暗闇のときと同じ様に、静かに話を聞きゆっくり付き合う。





その同じ頃、此方は都街。

風凪ぎ祭りの真っ最中な街は、楽しげな民たちで溢れていた。

風の神を象った小さな山車が出、雪花飾りをつけた音楽隊が笛を鳴らし、雪花をイメージして作られたキラキラ光る白銀色のドレスを着た娘たちが花片を撒き散らしながら、商店街を練り歩いている。

商店街にほど近い小さな広場では、街の人達が火を囲んで踊り、国民総出で行われる風凪ぎ祭りは相当の盛り上がりを見せていた。


ヘルマップを主体に企画された今年の祭りは例年にない趣向を凝らしていて、人々の心に“今年は何か違う”との期待感を持たせていた。

何かが変わる。

そんな予感を。



そんな最中、アニスは一人浮かない表情でいた。

ここは広場近くにある民家の一室。

窓からは、ヘルマップが掲げたスローガン『想いよ、空の上まで届け!』と書かれた旗が風にはためいているのが見える。


アニスは重圧と緊張に負けそうになっていた。


ヘルマップは素知らぬふりをしているが、あの“想いよ”は“歌よ”なのだ。

皆の前で上手く歌えるだろうか。

舞台に上がってもしも声が出なかったら、どうしたらいいのだろう。


手にしたオルゴールを見つめる。


結局、オルゴールは直らないままに今日という日が来てしまった。

やっぱり、あの時、引きうけるべきではなかったのかも・・・そう思ってしまう。


始まりは、あの日。ヘルマップがアニスの元を訪れてきたとき――――



『貴女はスヴェンの末裔ですね。今年の祭りで、歌を歌って欲しいのです』



アニスは、確かにスヴェンだけれど巫女の資格を持ってないし、そもそも風の子守唄を知らない。

すぐに、『歌えない』と断ったのだが、何度も何度も訪ねて来て『皆の心に希望の灯を点したい』『知ってる歌でいいから』と懸命に説得されてその情熱に根負けし『わかりました。一度だけ、歌います』と承知したのだった。
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