シャクジの森で〜青龍の涙〜
その時に、代々伝わるオルゴールのことを話したら瞳がキラリと光り、『調べてみよう』といわれ、一時的に預けたのだった。



『糸口が見つかりそうだ。内密に伝えたいことがある』



そう呼ばれて行ってみれば、不思議な玉を操る人と知らない人がそこにいた。



『急ぎ“ギディオンに行け”と出ておりまする。その者にとって、そこで“良い出会いがある”と―――』



玉は目映いくらいの光りを放っていて、アニスも良い予感に胸が躍ったことを覚えている。

ヘルマップには、自分とは違う強い想いがあるようだと分かったことも。



『・・・時が来た。この時を待っていた・・・ずっと』



愁いを含んだ声と真剣なまなざしは、アニスを跪かせる力を放っていた。



『はい。何があっても・・命に変えましても、きっと必ず』



二人の想いは違っていても、達するところは一緒。

そう信じることが出来た出来事だった。

ギディオンに行ってオルゴールを直す人と出会う。

そして、祭りで歌を歌い、風の神を呼び戻して空を晴らす。

脈々と受け継がれた巫女としての使命が、アニスの心に火を点した。


国境で吹き飛ばされそうになりながらも懸命に歩き、荒野を超え、ギディオンに入った。

足の痛みと疲れで意識が朦朧としていても歩くことを止めなかった。


時間がない、急がなければ。

直せる職人を早く探し出さねば。

その一心だった。


水晶玉を覗き見ている婆から聞いた景色を見たとたんホッとし、視界が暗闇に消えた――――



「―――直るかも・・・って、期待していたけれど・・・」



アニスはオルゴールをぎゅっと握りしめて呟いた。



「“哀しみの巫女歌いし時、紫水晶を宿した天の御使い現れ、心癒し、空が晴れる”」



スヴェン家に言い伝わる言葉。

歴代巫女たちが心のよりどころにして頑張って来たこの言葉。

それは、アニスも同様なのだが――――


ノック音がしたので入室を促すと、入って来たのはヘルマップだった。


小さな手にあるオルゴールと浮かない表情を見て、光を放っていた瞳が心配げな影を落とす。



「アニス、不安なのか?」

「ヘルマップ様。本当に“今”なのでしょうか。あの方達の言うとおり、私が歌えば、本当に、何かが変わるのでしょうか。それに、あんなことが起きているのに、祭りなどしていても良いのでしょうか。ギディオンの方々がお辛い気持でいるというのに。他国の皆様がご苦労されているという時に」



アニスは心の中にある不安を全部ヘルマップにぶつけていた。



「今日は、占い婆の言う最良の日なのだ。ギディオンの王子様が行方不明なのは重々承知であり、私も心を痛めているのだ」
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