シャクジの森で〜青龍の涙〜
視線を落とすと、舞台の周りから割れるような拍手が沸き起こった。



「巫女様ー!」

「素晴らしかったわ!」



アニスは信じられない気持で人々の顔を見廻した。

皆の弾けるような笑顔。

感動したと言って泣いている人もいる。

空には何の変化もなかったけれど、歌って良かったとしみじみと感じたのだった。


が。



「何だ!何も起こらないじゃないか!」

「期待していたのに!!」



拍手の渦を割るように、突然響いた棘のある声。

アニスの瞳に、怒る男性と女性の姿が映る。

広場の真ん中辺りから出されたその声に同調するように、周りの人たちの顔付きが険しいものに変わっていく。

期待感が大きいほどに裏切られた時の落差が激しい。

歴代の巫女が経験してきたものを、アニスも味わっていた。



「そんなことないわ!」

「そうだ!巫女様の歌は、素晴らしかったじゃないか!」


「素晴らしければいいというものではない!」

「そうよ!そんなのは、歌が上手ければ誰にでも出来るわ!」



アニスを庇う声と非難する声が飛び交い、広間は騒然とし始めた。

このままでは乱闘が起きかねず、アニスは「皆さん、落ち着いてください」と言いながら舞台の上を歩き回った。

ヘルマップも出て来て舞台の上に上がり、兎に角鎮めようと、大声を出すべく息を吸い込んだ。

そのとき――――



「――――みなさん、お静まりください!」



凛、とした甘い声が、広場に響く。


それは城側の方向から放たれていて、そこには一頭の馬がいた。

ほんわりと光るオーラを纏うエミリーと、その身体を大切そうに抱えるパトリックが乗っている。


広場では、ヘルマップは口を開けたまま固まり、今まさに殴り合おうとしていた男性たちもそのままの姿勢で止まり、アニスはオロオロとさせた手そのままにして固まっていた。



「パトリックさん、ありがとうございます。わがまま言ってごめんなさい」

「どう致しまして。君のその状態・・・ここまできたら、もう見守るしかないだろう?だが、アランには、内緒にしておいてくれ」



馬から下ろして貰ったエミリーはそのままパトリックに連れられて舞台の上まで来ると、そっとアニスに触れた。

ふ、と固まりが溶けたアニスの驚いた瞳が、ほんわりとあたたかなオーラを放つエミリーを捉える。



「・・・王子妃様。今のは一体・・・そしてそのお姿は―――?」

「ないしょなんですけど、わたし、ほんのちょっぴり天使の力があるんです」

「天使様―――・・あ・・あの、皆さんの体は・・・?」

「大丈夫です。他の人は、時間が経てばとけます。それよりも、アニスさん。今、オルゴールを持っていますか?」
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