シャクジの森で〜青龍の涙〜
しんと静まる広場。

エミリーの力で怒りの気を抜かれた民たちは、縛りは解けていたけれど動くことが出来ず、皆固唾を飲んで舞台上の様子を見守っていた。


二人の会話はとても小さくて聞こえないけれど、何がが始まろうとしているのは伝わっていた。


途中から舞台に上がった何とも優しい光を纏う綺麗な女性が、ゆらゆら揺れる小さな光をてのひらに入れて巫女の身体の前に持って行った。

巫女はそれを受け取るように手を差し出している。

すると、光は身体の中に溶け込むようにゆっくりと入り込んでいった。



「おいおい、何が、始まるんだ?」



思わず呟いた男性は周りからの無言の叱責を浴び、恐縮したように押し黙る。


舞台の上では、祭りの企画主が巫女達の傍に歩み寄り跪いて項垂れていた―――




「―――王子妃様、申し訳ありません。この私に、巫女様と話す機会をお与えください」

「はい。かまいません。リシェールさん。この方は・・・ヘルマップさんです」



アニスの姿を借りたリシェールが、ヘルマップを見下ろす。



『私に、話とは、何でしょう』



ヘルマップは、ありがとうございますと言って顔を上げ、真摯な面持ちで話し始めた。



「私の名前は、ヘルマップ・スクエアー・ヴァンルークス。王家の末裔で御座います。生まれおちてすぐ国から出され、荒野で暮らしております」



『王家?・・・あの王子の息子なのですか』



ヘルマップの話にリシェールの声が棘を含み、凍えるような気を放ち、睨むようにして見下ろす。



「いいえ、息子と言うわけでは御座いません。リシェール様の仰る王子は、既に何代も前のお方。私は姿も存じません。ですが!」



ヘルマップは、舞台の床に擦らんばかりに頭を下げた。

その背中に、リシェールの冷たい視線が刺さる。



「貴女様にした卑劣な行い、このヘルマップが代わりに謝罪申し上げる!!申し訳御座いません!こんなことでお怒りが溶けるとは思いませんが、どうぞ、私を殴るなりなんなりと、ご自由にして下さい!」



時が止まったかのように動かない二人。

それを破るように、パトリックが声を出した。



「リシェール殿、貴女が生きていた時代より、幾年もの時が流れております。この国は、男性王族は若くして世を去り続けています。このヘルマップ殿も荒野で暮らしながらも、いつ何時この世を去るか分からない日々に怯えながら過ごしております。それを、御理解下さい」


『そうですか・・・幾年も・・・あれから、そんなに、時が経っているのですか・・・』



ヘルマップの背中が、小刻みに震えている。


リシェールは、何かを確かめるように瞳を閉じて暫く押し黙ったあと、す・・と空を見上げ、胸の前で手を組んだ。
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