シャクジの森で〜青龍の涙〜
翌日。

出発するエミリーの元に、泣き顔のニコルと寂しそうに笑うアニスと神妙な顔付きのヘルマップの三人が集まっていた。



「王子妃様!絶体、ゼッタイに、お兄様が王子様を見つけるわ!だから、だからっ、安心して待っててーーーー!!」



最後には涙声になったニコルを、エミリーは優しく抱き締めた。



「ありがとう、ニコルさん。わたしも、そう信じています」



「王子妃様、アラン王子様はきっとご無事で居られます。昨夜の巫女殿の歌で、風の谷の霧も晴れております。すぐに見つかる筈です。このヘルマップ、精一杯に彼等をサポート致す所存です。パトリック殿、逐一早馬を飛ばして報告致します」

「あぁ、しっかり頼むよ。それに、ビアンカ殿のことだが―――・・・」



ヘルマップとパトリックが話し始めたのを横目に、アニスはエミリーの手をぎゅっと握った。

その瞳には零れ落ちそうな涙が浮かぶ。

始まりから終わりまでを思い返せば、感謝の言葉をどれだけ並べて言っても全然足りないのだ。



「エミリーさん、私、あなたに出会えて本当に良かった。雪花の泉は、徐々に溶けているそうです。きっとリシェール様の想いが叶ったからですわ。国境の雲も、あのとおりキレイになくなりました。何から何まで、本当に・・・本当に、ありがとうございます」

「そんな・・・。わたしはただ話を聞いただけです。最後に、完全にリシェールさんの心残りを取り除いたのは、アニスさんなのです。あれは、あなたにしか、できないことだったわ。これからも、巫女として頑張ってください。遠いギディオンの空の下から、応援しています」



アニスは泣きながら、エミリーに抱き付いた。



「ほんとうに、ありがとう。一刻も早く王子様が見つかることを、心を込めて神殿からお祈りいたします」

「アニスさん、わたしも、あなたに出会えて良かったです」



互いに抱き合って泣く二人に、パトリックは遠慮がちに声をかけた。



「エミリー、良いかい?そろそろ行かなければ―――」

「皆さん、また、お会いしましょう―――」




紋章付きの黒い馬車と数頭の馬を残し、行きとは違う車列がゆるゆると動きだす。

紋章のない黒い馬車に乗るエミリーの瞳に、アランの馬車が映る。

だんだんに小さくなっていく馬車が窓の端っこに隠れてしまうまで、いつまでも、いつまでも、じっと見つめていた。
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