シャクジの森で〜青龍の涙〜
ほとんど休まずに走り、その日の夜遅くにギディオンの城に帰りついたエミリーは、自室の窓際のソファに座っていた。

眠るまで傍についていると言い張るメイとナミを遠ざけ、一人、空に浮かぶ月を眺めていた。



「アラン様、どこにいるの?」



ずっと心に留め置いていた言葉を呟けば、切なさが胸に迫る。

でも泣くわけにはいかない。

そうしたら、認めてしまうことになる。

でも―――


今座っているソファ、婚儀を期に入った新しい鏡台、ベッド脇の白い扉、そして天蓋付きのベッド。

この部屋の何処を見ても、アランの姿が思い浮かんでは消えていく―――


エミリーは首を横に振って懸命に言い聞かせる。



「ダメ。アラン様は、ヴァンルークスに出張しているだけなの。いつも通りすぐに帰ってくるわ。絶体に帰ってくるのだから」



頬をぺしぺしと叩き滲み出そうな涙をなんとか飲み込み、テーブルの上に置かれた処方袋を見て呟く。



「やっぱり、飲んだ方が、いいのかしら―――」



部屋に戻ったとき真っ先に診察に訪れたフランクが“エミリーさん、眠れていませんね。貴女には休息が必要です。必ず、これをお飲み下さい。いいですね?でないと、王子様に叱られますよ?”眼鏡をギラッと光らせて置いて行ったもの。

恐らく、飲めばぐっすりと眠れる薬だろうと思えた。



「ニャー」カリカリカリカリ・・・

「ニャー」・・・ちりんちりん。



シャルルは鏡台に上がり、そこに立て掛けて置いてある手持ち鞄をしきりに引っ掻いていた。



「ニャー」

「シャルル、どうしたの?ダメよ。そこには、とても大切なものが入ってるの」



エミリーはシャルルを抱き上げて鏡台から離れた位置に下ろして、鞄を開けた。

慌ただしさにとりまぎれて、うっかり仕舞い忘れた大切な銀の小箱。



“これは、私の、命だ”



これには、アランの紋章入りの指輪と月の雫がある。

それの蓋を開けて中を見て、エミリーは驚きの声を上げた。



「・・・光ってる」



最初は月の雫だけが光を放っていると思った。

けれど、アランの指輪も仄かに光っているように見える。

エミリーは、両方を取り出しててのひらの上に乗せた。



「あたたかい・・・ね、シャルル、これあたたかいの。シャルルは、このことを教えてくれていたの?」



どうしてなのかは分からない。

けれど、アランの指輪がほんわりとあたたかいのだ。

まるで、人肌の温度のように―――
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