ハッピークライシス
「ねえ、もう良いでしょう!?男も子供も知らない、けれど説明はしたわよね!!それをちょうだい…!!!」
金切声で叫んだリサに、ボトルを投げ渡した。
栓を開け、勢いよく口をつけるリサには、既に身体の痛みすら感じないようだった。
シホは寝室を見渡す。
フィリップの趣味で、多くの絵画や美術品が並んでいる。その中のひとつについ最近、青薔薇が盗んだ作品"メテオラの乙女"と同じ画風の絵があるのに気づいた。
テンペランス=ジュール。
おそらく、この絵も彼の作品のひとつだろう。メテオラの乙女に比べるとサイズは小さいが、これもアホみたいな高値がついているに違いない。
シホはそっと手にとった。
「…なんだ、これは」
絵を取り外した箇所は壁紙が無造作に破られており、そこに9桁のナンバー式のボタンがある。シホはそれをじっと見つめる。どこかで、これに当てはまるような数字を見た気がしていた。
記憶を辿る中で、ふと、万年筆で殴り書きされた数字が脳裏をよぎる。
ユエが記憶を失い目覚めた朝、何か思いついたように書き記したもの。
どういう経緯かは知らないが、やはりユエはあの晩ここに来て、リサと会ったのだ。
そして秘密を知り、記憶を奪われた。
ひとつひとつ確かめるように番号を押せば、部屋の奥でガチャ、と錠が外れる音がした。暫く室内を探し回ると、クローゼットの最奥に、この部屋のインテリアには似つかわしくない重苦しい雰囲気の扉があるのを見つけた。