ハッピークライシス

「ちょっと、あたしニュース見てたんだけど。勝手に変えないでくれる?」

「ここは俺の部屋で、俺はこのドラマが見たいんだ。くだらないニュースが見たいならさっさと自分の家に帰るんだな」

「…くだらないのはこのドラマでしょう!?」


シホが声を上げれば、ユエは心底鬱陶しそうな顔を彼女へと向けた。
漆黒の黒髪に深い海の底を思わせるブルーの瞳。すらりと伸びた体躯は175センチ余り。まだ19という年齢を考えれば、これからもう少し伸びるかもしれない。

瞳に、僅かに殺気が浮かぶのを見てシホは小さく肩を竦めた。


「なによ。同郷のよしみで、格安で仕事を請け負ってあげたってのに」

「ああ、いつも助かってる。シホより信頼出来るヒットマンは他にいない」


そう言って、ユエが小さく口角を上げるのに思わず見惚れる。同じ街で生まれ、たとえ血は繋がらなくとも家族のように共に生きてきた。見飽きるほど見てきた顔なのに。

彼の美しさは、年々深みを増していくように思う。
"悪い癖"はいっこうに治まらない。こちらも、病状を重くしている。

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