ハッピークライシス
そっと薄いベージュの布を取り払えば、そこに現れたのは目の前の美しい男に連れ去られた可哀想な『メテオラの乙女』。ユエはゆっくりとソファから立ち上がり、乙女をじっくりと鑑賞する。
「美しいだろ」
「…ああ、まあね。綺麗すぎるくらい」
「名画家テンペランス・ジュールの作品だ。モデルは彼の娘というのが通説だな。彼女が手にする百合におしべはない。清らかで純白、処女性を意味しているんだ。美しく聡明な娘を神聖視し、一切の穢れから遠ざけた。命事切れるまで」
「残念ね。結局、最も冷酷で残忍な男に連れ去られた」
「あはは。それ、もしかして俺のことか?」
声を上げて笑い、ユエはそっと乙女に口付けた。
「大切にするよ、メテオラ。ずっと会いたかった」
処女だという乙女の頬が、僅かに赤らんで見えた気がした。
可哀想なメテオラ。あなたは大変な男に連れ去られたのよ。彼は美しい王子様じゃない。決して。処女を奪い、弄ばれて、飽きられればそのまま転売されるでしょう。