ハッピークライシス







屋敷を前に、シホはゆっくりと周囲の様子を窺う。

周辺は人気がなく、不気味な程に静まり返っている。各所に設置してある防犯カメラには全て銃弾が撃ち込まれ、レンズが割られていた。

鉄製の裏門を掛け登り、しなやかな身のこなしで難なく敷地内へと着地する。
草木の生い茂る屋敷の北側から徐々に正面玄関へと足を進める。

近づくにつれて、風に乗り僅かな硝煙が鼻を掠めた。


シホは右手に銃を握り、屋敷内へと進入した瞬間思わず口を覆う。あまりにも濃い血のにおいが充満し、嗅ぎ慣れたはずのそれに、思わず吐き気すら催した。

額から、つうと汗が落ちる。


屋敷の中は薄暗く、土足で踏み入られた形跡がそこかしこに残っていた。足音を立てないように、気配を消しながらエントランスを探る。


まずは、フィリップ=フェデリコを消す。

先日行われたフィリップ=フェデリコの誕生パーティの際に、この屋敷の構造については全て把握済みだった。
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