オトナの秘密基地
「違います! 私はお金も学もありません。若旦那様にふさわしくありません。こんな私が中田家の嫁になんて……」
なれるはずがない。そう言おうとしたのに、言えなかった。
若旦那様の唇が、私の唇を塞いでしまったから。
そして、若旦那様にしっかりと抱擁されていた。
私にとって、若旦那様の腕の中は何よりも安心できる居場所であると感じた。
私も、若旦那様の背中に手を伸ばして力をこめた。
「ずっと、待っていた。和子が大人になるのを。和子が俺を夫として受け入れてくれるのを」
「私も、ずっと願っていました。妾でもいいから、若旦那様のお傍にいたいと」
すると、若旦那様はくすくすと笑いながら「妾はありえない」と呟いた。
「俺の言い方が悪かった。俺の家を守るのではなく、俺とそのうち生まれる子ども達を支えて欲しい。その代わり、俺は和子と、この国を守るから」
その言葉を聞いて、胸がいっぱいになった私は、小さく「はい」と返事をして大きな涙をこぼした。冷たいほほに熱い涙が流れていくのを感じていたら、若旦那様の手がそれをぬぐってくれる。
「和子の泣き顔を見るのが辛くて、いつも正を懲らしめていた。この俺が和子を泣かせる日が来るなんて、な」
白い世界に、ほんのりと幸せの色が見えた気がした。
【番外編・完】


