幕末オオカミ
蔵の戸を開けると、むわりと嫌なにおいがした。
隊士の群れから発せられる汗のにおいと、多分桝屋から出たのであろう排泄物と、血のにおい……。
朝から休みなく続く責問いで、桝屋の顔はふくれあがり、元の面影がなくなっていた。
その本人は、いつもあたしが寝ている二階にある梁(はり)に繋がれた縄で、逆さづりにされている。
「げー、鬼だ……」
思わず平助くんが声を出し、拷問している副長がこちらをにらんだ。
「いいところに来た。
そろそろ決着をつけようと思っていたところだ」
土方副長は汗だくで、髪がその首や顔にはりついていた。
「小娘、苦無を二本貸してくれ」
「へっ?あ、はい!」
一刻を争う事態。用途を聞いている余裕はない。
あたしは二階に駆け上がり、自分の苦無を二本、副長に投げて渡した。
一階に戻る途中、他の隊士が蝋燭を持ってくるのが見える。
太くて大きな百匁(ヒャクメ)蝋燭が二本、その手に握られていた。