フクロウの声
マオリは用心深く沖田と距離を保ちながら、
咳き込む姿を心配そうに見つめて首をかしげた。

沖田の咳が止まると、
やつは先ほどとは別人のような
空虚な光のない瞳で手のひらを見ていた。

漂っているものとは別の生気の失せた血のにおいが漂った。

「大丈夫ですか。」
 
マオリは黙っていられなくなって声をかけた。

「心配ない。風邪をひいているんだ。」
 
沖田は手のひらを着物でぬぐってマオリに微笑みかけた。
やはり、薄い冷めた笑顔であった。

「君ももう帰るといい。今夜は冷える。」
 
そう言うと沖田は背を向けた。

先ほどの鬼神ごとく刀を振るう姿とはかけ離れた、
痩せた背中がゆらゆらと遠くなっていく。
 
濃く、死のにおいのする男であった。
深く、血なまぐささが体に染み付いている。
 
マオリがスンと、鼻をすすった。
 
いつのまにか自分にも染み付きつつある、
同じにおいに気がついたのかもしれない。
 
おれは甘えるようにマオリに擦り寄った。

柔らかいマオリの黒髪がおれをくすぐる。
 
マオリも答えるようにおれに頬をこすりつけた。
夜風で冷えたマオリのかさついた頬がふと温かく感じられる。
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