恋猫

 首筋から大量の血。
 何かに噛まれ引き裂かれたような喉もとの大きな傷。そして、腕の至る所に引っ掻き傷。


 「これは、篠の死体とそっくりじゃねえか」


 尚八郎が喉もとの傷を見ながら呟いた。


 「又しても、獣に襲われたのか」


 銀次が腕組をして独り言。


 「猫か、狐か、はたまた別の獣か。まあ、どっちにしても、下手人は人間の可能性は低いな」


 尚八郎が、腕の引っ掻き傷を十手で指し示して。


 「銀次、悪いが『越後屋』までひと走りして、この事を『越後屋』の主に知らせてくれねえか」
 「へい、承知」


 銀次が、『越後屋』に向って一目散に走って行った。
 尚八郎は、銀次がいなくなった後も、死体や、死体の回りを、あれこれ丹念に検分していた。






 
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