恋猫

 篠は淳ノ介がこう言うのを予め予期していた。


 「淳ノ介さまが。それは、悪うございます。私(わたくし)がひとりで帰りますので」


 篠は淳ノ介の申出を一応辞退した。

 「送らせて下さい」

 淳ノ介は、篠が辞退しても引き下がらない。


 「淳ノ介さまが、そこまで言われるのでしたら、お言葉に甘えさせて頂きます。本当にありがとうございます」


 篠の筋書き通りに物事が運んだ。
 化身した篠は、内心にんまりとほくそえんだ。


 武家の娘らしく篠が淳ノ介から一歩下がるようにして、二人は歩き始めた。

 篠は、あくまで気高い武士の娘を演じていた。
 楚々と歩き、気安い行為やはしたない言葉を、化身した篠は厳しく戒めていた。





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