恋猫
「部屋も見学出来た事だし、そろそろ帰りませんか」
今まで自棄(やけ)に落ち着かない素振りの淳ノ介が、いきなり突拍子も無い言葉を、篠に囁いた。
「なにっっ!帰る。信じられない」
呆れた顔をして篠が、淳ノ介の惚けた顔を見詰めた。
「何が、信じられないのですか?」
と、淳ノ介。
「信じられないから、信じられないのです」
と、篠。
どうにも、二人の歯車が噛み合わない。
淳ノ介は、益々篠が分からなくなった。
武家の娘らしく気高く楚々した篠と、出会い茶屋に興味津々の猫のように目を光り輝かせる篠。この二人が、とても同一人物とは、淳ノ介には思えなかった。