恋猫
「出会い茶屋にいた篠さまも、自分で着物を着る事が出来なかった。毎日、着物を着ている武家の娘が、そんな事があろう筈がない」
「何人も召使いがいる大名の姫君なら、そういう事もあるかもしれない。しかし、禄高もそう高くない一旗本が、娘だけに何人も召使いを持てる訳がない」
淳ノ介の推理は、縺れた推理の紐がほどけるほどに、今まで思いも及ばなかった事柄に、行灯の灯りを灯した。
「としたら、私が抱いたのは、間違いなく猫か、獣であったのか。私とした事が、よくもまあ畜生をヌケヌケと・・・。呆れるにも、ほどがある」
淳ノ介は愚かな自分に、腹が立って、腹が立って、仕方がなかった。
「しかし、猫か、獣という証拠はない。こうなれば、証拠を辛抱強く探すしかあるまい」
淳ノ介は篠の殺害現場を離れ、道々、必ず証拠を探して見せると、意気込んでいた。しかし、現実は甘くない。証拠は、そう簡単には探す事は出来なかった。
証拠を探せない悶々とした日が、一日、二日・・・と続いた。そして、時の流れは、いつしかその記憶さえも跡形も無く流し去った。