似非恋愛 +えせらぶ+
「それは、本当に奇遇だな。で、香璃は今何をやってるんだ?」
「SEよ。みあと同じ会社のね」
私の答えに、斗真が目を丸くする。
「おいおい、業種まで一緒かよ。本当に……奇遇だな」
「後石さん、2人ともAglousの方ですよ」
氷田君の言葉に、斗真は目をむいた。
「まじかよ、仕事で絡むとこじゃねぇか」
「ほんと、信じられない……斗真、いつ日本に帰ってきたの? おじさん達も一緒?」
酔いが回り、良い気分になってきた私が矢継ぎ早に質問をする。
「こっち帰ってきたのは2年前だ。今の会社は中途なんだけどな。親父達は向こうだよ」
「後石さんは、海外にいらっしゃったんですか?」
みあが訊ねる。斗真がみあに微笑みかけながら、グラスを傾けた。
「そう。俺、スウェーデンと日本のハーフで、高校卒業の時にスウェーデンに移住したんだ」
「突然だったわよね、本当に」
私の言葉に、少し棘が混じったことに、斗真は気づいただろうか。
あの時のことを思い出し、私の胸の奥が小さく痛む。
「ああ、香璃達にもろくな挨拶もできなかったなあ」
本当は、挨拶ができなかったんじゃなくて、しなかったんでしょう。
そんな思いを消すように、私はグラスを空にする。