似非恋愛 +えせらぶ+
私は斗真に笑いかける。話しているうちに、そこはもう、私のマンションの前だった。
「また、ゆっくり話しましょう」
「ああ……あ、おい、スマホ」
「え? あ、そうね」
私達は思い出したようにお互いの連絡先をスマホに登録する。
そして別れようとしたとき、私は人影が入口にあるのに気付いて、身を強張らせた。
「どうした?」
斗真が不思議そうに私を見る。表情をなくした私の視線の先に、真治がいた。
「……あれ、元彼」
マンションの入口で、誰かを待つかのように立っている真治。私は、震える声で斗真に告げた。
すると斗真は、見ているこちらが気後れするほど険悪な表情になる。
「ちょ、斗真?」
突然、斗真が私の腕をとって歩き出す。引きずられるように私は斗真についていく。そして、真治の視界に私が入った。
「香璃っ」
ずっと好きだった男の驚いた顔に、私は立ち止まる。同じように足を止めた斗真が、さっきの険悪な表情から一転、不思議そうに真治を見た。
「香璃、知り合い?」
口を開こうとした真治を遮るように、斗真が私に話しかける。まるで、彼女を心配する恋人のように。
私は悟った。斗真は私のために、恋人のふりをしてくれているんだ。