似非恋愛 +えせらぶ+

 私は、気力を振り絞って笑顔を作る。

「うん、元彼。行きましょう?」

 私は真治を無視して、斗真の腕を引いてマンションに入った。

「……香璃……っ!」

 真治が何をしに来たのかは、わからない。
 だけど、まるで私を自分のものだとでも言う風に呼ぶ声に、後ろ髪をひかれる思いだった。

 マンションに入って、オートロックの扉が閉まる。その瞬間、私の頬を涙が伝った。

「……まだ、好きなのか?」
「斗真、部屋まで来ない?」

 斗真の方を見もせずに、私は言った。そちらを見なくても、斗真が私を見るのが分かった。

「慰めてくれるんでしょ?」

 私はずるい。
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