似非恋愛 +えせらぶ+
こうして、2人で並んで歩いているのが嘘みたいだ。昔も、こんな風に一緒に肩を並べたことはなかったような気がする。
私達は連れだって斗真の家に向かう電車に乗った。帰りの電車の中は混んでいて座れない。
憂鬱になる混みあった電車でも、斗真がさりげなくかばって、スペースを確保してくれている。
そんなさりげない優しさを、ずるいと感じてしまう自分が嫌だった。
「今、斗真は忙しくないの?」
嫌になりそうな気持ちを抑えるように、私は斗真に訊ねる。仕事のことは、同業者としても興味があった。
「先週がちょうどくぎりだったんだ。だから呑んだくれてた。香璃は?」
「そうね、ちょうど要件定義なの。ここからが本番ね」
吊革にぶら下がりながら、私は答えた。そこから仕事の話で盛り上がった。同業者だから伝わる苦労話や、物事の価値観に、変に言葉を選ばなくてよくて、楽しかった。しばらく他愛もない話をしているうちに、降りる駅についていた。
そして、駅からしばらく歩くと斗真のマンションについた。斗真がオートロックを解除し、エレベーターに乗り込む。
そういえばあの日、相当酔っていた私は全く記憶がないのだが、斗真に抱えられてこのエレベーターに乗ったのだろうか……。
汚点だ。失態でしかない。