似非恋愛 +えせらぶ+
「元彼の名前は?」
一体何をする気なのかは、あえて訊かなかった。なんとなく、斗真が何をする気なのか、わかるような気がしたから。
「……飯山真治」
「あった」
斗真が、スマホを耳に当てる。すると電話から漏れ聞こえるコール音の後、真治の声が漏れ聞こえてきた。
『もしもし、香璃?』
その声に、私は唇を噛む。そんな私を、斗真が抱き寄せてくれた。
「香璃じゃなくて悪かったな」
平然と応えた斗真に、受話器の向こうからしばしの沈黙が流れる。
『……誰だ?』
「香璃の男だけど。もう連絡してくるな」
斗真が、さもありなんといった風に言った。あまりの図々しさに、私は呆気にとられた。