似非恋愛 +えせらぶ+
「あ」
斗真と目があってしまい、思わずそらす。
「じゃあ、失礼いたします」
「え?」
斗真が私を気にすることなく、まるで気づいていないかのように、みあ達に去り際の挨拶をした。間抜けな声を上げたのは、私でなくてみあの方だった。
そして、氷田君は私に一礼し、不思議そうに斗真の方を見やったが、すぐに斗真に続いた。
「佐川ちゃん、どうした?」
突然声を上げたみあを不審に思ったのだろう、木戸さんが声をかけた。
「いえ、何でもないんです」
何でもないわけがない。気にしていないわけがない。みあが視線だけで私を心配しているのが、私にはわかる。
まさか、あそこまで完璧に無視されるとは思っていなかった。想定外もいいところだ。
それ以上に、こんなに傷ついている自分が、想定外だった。