似非恋愛 +えせらぶ+

「……うん」

 それから、私は黙った。何も、言うべき言葉が見つからなかったから。

「でも、香璃」

 真治が、困ったように口を開く。

「なんでそんなに辛そうなの」
「……今、喧嘩中だから」

 適当に、嘘をつく。

 真治は勝手だ。
 真治が私を裏切るような真似をしなければ、あの日私が斗真と再会することはなかったし、こんなに面倒な関係になんかならなかったのに。
 それなのに、今更になってやりなおしたいだなんて、本当に勝手だ。

 そして、そんな真治に心が揺れている私は、最低だ。
 斗真と向き合おうと思った矢先に、真治に未練が残っている私は、卑怯だ。

「……香璃、とにかく、考えてほしいんだ」

 真治が震える声で続けた。真剣な、声で。

「俺、香璃のこと待ってるから」

 私は何も言わずに立ち上がった。その場にお札を置く。無言で帰ろうとしている私を、真治は引き止めなかった。

 私はその場を後にした。


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