似非恋愛 +えせらぶ+


 店を出た後、切り刻まれているような胸の痛みに気付く。本当は、真治の前では痛みに気づかないふりをしていただけだ。

「痛い……」

 私はそっと胸元を押さえた。
 そんなことをしても、痛みはなくならない。

 ぐるぐると、とりとめのないことが頭を回っている。

 幼い私は、斗真のことが好きだった。
 斗真は、私の近くからいなくなった。

 大人になった私は、真治のことが好きだった。
 真治は、私と違う女を連れ込んだ。

 傷ついた私は、斗真と再会した。
 斗真と、偽物の恋愛関係になった。

 思い悩んだ私は、真治と再会した。
 真治は、私とよりを戻したいと言った。

 私は……。

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