似非恋愛 +えせらぶ+

「っ」

 ぐちゃぐちゃになっていた思考が、バイブレーションで現実に引き戻された。
 はっと気づいて、ディスプレイも確認せずにスマホに出る。

「はい……」
『やっと出たか』

 低い声に、体が震えた。

 今、このタイミングで、一番聞きたくなくて……一番聞きたい声だった。

「斗真……?」
『何の用だった? さっき会社に来てただろう』

 斗真からの電話に、私は言葉を失ってしまう。
 斗真に言える言葉が、何も思いつかなかった。

『おい、香璃?』
「へ、あっ……ご、ごめんなさい」

 馬鹿みたいに惚けた声を出したら、電話の向こうで斗真が笑う声が聞こえた。

『なんだ、お前、今日おかしくないか?』

 からかうような斗真の声。普段となんら変わりなさげな、斗真の声。
 私の思考がぐちゃぐちゃになっているのは、その斗真のせいだ。

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