似非恋愛 +えせらぶ+
「お、今日はスーツじゃないんだな」
私を招き入れながら、斗真が言った。
「ええ、今日は打ち合わせがなかったから……」
「飯は?」
「……食べてない」
私の返答に、斗真が目を丸くする。
「なんだ、ダイエットか?」
「一応、その必要性は感じていないんだけどね……。タイミングを逸しただけよ」
私も余裕ぶって笑って、荷物を無造作に床に置いた。
本当は今にも消えてしまいたいくらいに混乱しているというのに。
「じゃあ、簡単なものでも食うか」
「お願い」
斗真が頷いてキッチンに向かった。私は気が抜けてソファに崩れ落ちるように座った。
なんで、何も訊かないのだろう。私が斗真の会社の前にいたこと。逃げ出したこと。あんなに電話をかけてきていたのに。
なんで何もなかったかのようにふるまって、以前よりも私に優しいのだろう。