ちよちよみちよ
「えっ? スナックみちよ?」
『スナックみちよ』の言葉に、幸一さんは眉毛を上げて過剰に反応した。
「そっすけど」
「そっかあ、じゃあ、君のお母さんも、みちよさんかあ」
ぽっかりと口を開けた幸一さんの表情に、僕の脳裏をある予感がよぎる。
いや、まさかね。だって、いくらなんでも、幸一さんの好きだった人が、まさかみちよだなんてそんなことはあははは……
「スナックみちよ、彼女と同じ名前だなあって、何度か入ろうとしたんだよね」
僕の予感は見事に的中しそうで焦った。
「でももう、15年以上前だしなあ。まさかね」
「15年?」
「そう、15年、いや16、17年かな……」
ちょうど僕が生まれた頃か。
え? いやいやいや、まさかまさかまさか。
僕と幸一さんは思わず顔を見合わせる。多分、考えていることは一緒だった。
「ははは」
「ははは」
二人の笑いは夏の風に吹かれてすぐに掻き消される。
幸一さんの好きだった人がみちよで、たった一回の奇跡で僕が生まれた? ははは。それではあまりにも偶然が出来すぎている。安っぽい悲劇じゃないか。いや、もはや喜劇だ。変な想像はやめだ、やめ。