ちよちよみちよ



父さんは、僕が小さい頃に事故で死んだのだ。そうみちよに聞かされている。父さんの顔を確かに僕は知らない。みちよは写真を全部捨ててしまったと言った。知っているのは、僕の顔は父さんにそっくりだということ。
まじまじと幸一さんの顔を見てみる。うむ。やっぱり疲れた老犬みたいだ。さすがの僕もこんな情けない顔はしていない。だいたいこんなに眉毛は下がっていないし。
あり得ないあり得ない。

「思いきって、スナックみちよ、行ってみちゃおうかな」

ワクワクした様子の幸一さん。

「なら、今から一緒に行きます?」

そんな幸一さんを誘ってみる。
今日、店は空いていた。お客を連れて行けばみちよは喜ぶだろう。ましてやみちよの好きな、イエロー·ハブのバックギタリストだ。いや、もしかしたら驚きのあまり腰を抜かすかもしれない。幸一さんの顔を見たら、いったいどんな反応をするだろう。まさかの二度目の奇跡か?
はははは。いやいやいや、やっぱりそれはあり得ない。僕の父さんは死んだはずだ。

「楽しみだな」

「うちの母、イエロー·ハブのファンなんすよ」

「え? 本当? うれしいなあ」



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