執事ちゃんの恋
「う、うるさいなー! でも、ヒナタはだめ。黒い、黒すぎる」
「ふふっ」
「笑い事じゃない! 私は男装ヒヨリが好きだったの、同じ顔でもヒナタとは絶対にイヤ。中身が違いすぎるっ!」
ボスッと身近にあったクッションにパンチを繰り広げて叫ぶコウに、ヒナタは悲し気に眉を顰めた。
が、それは表面上だけだ。瞳は嬉々としていた。
「コウさま、そんなふうに思っていらっしゃったのですか? 私は悲しいです」
「うっ、ひ、ひ、ヒナタ!」
戸惑い慌てるコウを見て、口角をクイッとあげたのをヒヨリは目撃した。
要するに、ヒナタはこの状況を楽しんでいるということだ。
「でも、私もコウさまと同意見ですね。コウさまと夫婦になるには若干無理があるかと」
「そ、そうよ! 私たち仲良く見える?」
「この件だけは勘弁してくれ」と笑顔で拒絶体制のヒナタと、感情に任せてキャンキャン叫ぶコウ。
二人して健とヒヨリに同意を求める。
が、健がそこで「仲良くなさそうだ」なんていうはずもない。
にっこりとほほ笑んで、二人を優し気に見つめた。
「ええ。いつも仲良く言い合いをしているではないですか」
「ちがーう! これはイヤミの応酬をしているの! どこからみたら仲良くみえるのよ!」
ボスッとクッション相手に拳をあげるコウを横目に、健は偽りの笑みを浮かべているヒナタに視線を向けた。
「ふふ、でもヒナタは困るでしょ?」
「は?」
「霧島を継ぐものがいなくなった。ヒヨリは私が妻として迎えますからね。となれば、必然的にヒナタが霧島に戻り継ぐことになる」
「ぐっ」
今まで浮かべていた笑みを歪ませ、ヒナタはぐうの音をだすことができない。
そんな様子を見た健は、クスクスと笑う。
「コウは文月家をでて、だれかと婚姻しなくてはならない。そしてヒナタも家を継ぐという事は……嫁を娶らなければならない」
「「……」」
「ほら、二人とも利害が一致しているでしょう。よかったですねぇ」
「「よくないです!」」
息ぴったりで同時に叫ぶコウとヒナタを、遠くで見守っていたヒヨリだったが、突然コウに睨みつけられた。