巫女と王子と精霊の本


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「むかしむかし、あるところに空と海に愛された世界、アルサティアがありました」



広い草原、風通しが良いせいで本のページがめくれそうになる。


草原に足を崩して座りながら本を朗読する。




「何百年もの間、平和な時を過ごしてきたアルサティアに魔王ガイアは災厄をもたらします」


「さいあく、ってなにー?」



その言葉にクスリと笑ってしまう。
目の前の愛しい子の頭を優しく撫でた。



「今日一日の気分が最悪!って意味だよ!」



「ふふっ、それはさいあく、違いね。災厄っていうのは、皆が悲しい思いをしたり、苦しんだりしてしまう恐ろしい出来事よ」



少し背の高くなったもう一人の愛しい子の頭も優しく撫でた。



「さぁ、続きを読むわよ。…天災が国を壊し、疫病を呼び、竜が人を襲い、争いが起き…それはそれはたくさんの犠牲を生みました」



話しながら、あの日々を思い出す。
欲しくても、欲しくても絶対に手に入らないと思ってたこの世界の居場所。



最初はこの世界で生きると分かっていても不安になる事が多かった。


でも………



「続きを読んで!!」

「よんでー!!」



この子達がいるから、私はやっとこの世界で生きていけるんだって実感できたんだ。


それに…あの人が傍にいてくれたから…



「ごめんね、続きね。…そんな時、勇敢な王子、エルシスが現れます」


「「わー!!」」


二人が嬉しそうにはしゃぎ出す。


そんな二人が喜ぶ理由、それは私にもわかる。そう、私もこの王子様が大好きなんだ。


ずっと、ずっと前から……そして今も。


そして私は本を朗読していく。



「こうして、巫女と王子はともに世界を救いました。役目を終えた巫女は自分の世界へと帰ってしまいましたが…」


「お前は帰ってきた」



突然後ろから聞きなれた声が聞こえた。
振り向くとひときわ大きな風が吹き、今まで読んでいた本のページがめくれてしまう。



「お父さん!!」

「おとう、しゃんー!」



二人のわが子が駆けていく。



「鈴、ルカ。あまり走るな、転ぶぞ」


声の主が二人を抱き止める。


「鈴奈、またここにいたのか?」


「エルシス…。うん、二人がここで本を読んでって」


本を膝に置いて大切な人たちを見上げた。


私の一人目の子である鈴、そして…
二人目の子、ルカ。


私達の大切な宝……



二人を抱えたエルシスが私の前に腰かけた。子供たちが私達の間ではしゃいでいる。





















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