とある神官の話




 闇に浮かぶ自らの影。それが沸騰する。それはやがて一つの人を吐き出した。




 ――――――殺せ。




「………黙れ」




 ――――――殺せ。
 お前の愛する者は誰に殺された?
 お前は誰に裏切られた?




「黙れ!」




 真夜中ということを忘れて張り上げた声に、猫か犬かが逃げていく。幾度となく現れた"それ"は、自由を奪う。
 微かに遠くで気配がしたため、短く舌打ちをした。逃げるように屋根上を飛翔していく。



 誰か。
 止めて欲しい。

 生まれ変わりたくなどなかったし、目覚めたくもなかった。静かに眠らせて欲しかった。愛しい人の傍で。いいや、彼女はいたのだろうか?私の傍に。
 顔は思い出せた。なのに、名前が出てこない。ああ、なぜ。



 二度目の死の恐怖より、孤独のほうが恐ろしかった。




  * * *




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