とある神官の話
「やれやれ」
獣人の能力を持った村の住人の家は質素なものだった。だが、数ヶ月前に娘を亡くしてからというものの、あまり人前に出なくなったという。
ダナ・フィルタの時と似ている。男は娘を喚ぼうとしたのだ。―――村人を犠牲に捧げて。だが見たところ、男が闇術に身を染めていたわけでもないらしい。死のうとしていたようだが。
家には地下に物置があり、そこに"それ"があった。
―――"時は来た。
―――再び我らは復讐を遂げる"
「それで」
「ん、これ」
「……うわ」
手当を受けたムブラスキ神官を横に、袖をめくったヨハン。そこにはややいびつな陣が描かれたていた。人を操るためのものである。乱暴に書かれたようで、傷口が変色していた。
ヨハンの話はこんなものだ。
獣人の能力持ちのあの中年の男の娘が、数ヶ月前に亡くなっていた。その娘を救出したのはヨハンとレスティだった。だが、娘は――――。
今から数日前、ノーリッシュブルグで起こった事件を追ってノータムに来たヨハンは、何者かに襲撃された。
「それが、その娘さんの父親です」