とある神官の話
控えめに笑った彼女は、私の熱を帯びた手を握る。暖かい。
風邪をひいたら、自力でどうにかすることが多かった。昔からそうだ。たびたびそれでランジットに迷惑をかけたのが懐かしい。あいつは「お前でも風邪引くんだな」と笑っていた。
風邪自体久しぶりだ。
苦しい。苦しい。目眩がする寒気がする。気持ち悪い。だが、どうしてか。内側が、温かくてむずがゆさを覚えた。
「おやすみなさい」
* * *
「もう冬、ですか」
窓を眺めていて、ふとセオドラ・ヒューズはそう漏らした。一年などあっという間に過ぎていくんだろうと。
あっという間だ。
「ヒューズ副局長?」
「いえ、なんでもないですよ」
建物から出て、その寒さに体を縮ませた。羽織るコードは厚めにして正解だった。
最近囁かれているのは、あのアガレスが出てきていること。"嘘つき"がいること。処刑云々の話。今頃局長が会議にでも出てるだろう「―――――それで」
付き添いとしている神官の男はやや後ろを歩いていた。視線がこちらにぶつかる。