とある神官の話




 暖かい。

 穏やかな気分だった。ものすごく。嫌な夢ばかりだったから、尚更に。ただやはり少し怠い。体が重い。


 目を開ける。

 天井よりも目に入ったのは、思わず息をのむ。閉じられた目。顔にかかる髪に無防備さ。シエナだった。
 昨日のままの服装で、そこにいた。それで私は思い出す。なんてことをしたのか、と。我ながら恥ずかしくなった。他人に甘えるなど。

 体は昨日と変わらずに、まだ熱が残っているようだった。シエナを起こさぬように体を動かす。
 彼女の背中には毛布。おそらくブエナだろう。




 ――――好きだ。




 馬鹿だと思っていた。

 見習いのとき、同じ見習い神官が色恋の話をしていても、興味はなかった。私にはわからなかった。恋も、愛も。結婚?
 産みの親の顔よりも、その縁戚の顔のほうが強く思い出せる。最悪。地獄。あれが夫婦? 愛する? ならば私は一人がいい。だが、一人では何もできない。わかったしわかっている。

 学問を疎かにするほどなのか。私は馬鹿にしていた部分があったのだ。確かに。あれだけ恋というのは厄介なのかと。



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