とある神官の話
キースは不満げに口を曲げた。溜息をついたミスラはラッセルに向かって「今度酒でも奢れよ」と言って部屋を出る。
キースが慌てた様子でその背中を追い掛ける。若いな、と私は漏らした。
これである程度は大丈夫だろう。
「さて、行きますか」
「ああ」
私の言葉にラッセルは返事をしたが、はて行き先を言っただろうか。
そう思った直後に「で、何処に?」と言うものだから、私は僅かに笑みがこぼれた。
* * *
「ハイネン?」
入口を間近とし、その見知った姿を見たランジットが足を止める。そこには漆黒の外套を纏ったヨウカハイネンがいた。その横には見知らぬ男性らしい背格好の者。顔は見えない「ちょうど良い所に」
「今シエナさんの元に行こうかと」
「私の?」
何かあったのだろうか。雪の降る中、「ヒューズ副局長のことは知っていますね」という。気を緩ませれば落ちそうになる涙をこらえる。人前で泣くという醜態をさっきしたばかりだからだ。
胸の痛みを忘れるためには動いていたほうがいいのかもしれない。