とある神官の話
「シエナさんには話していませんでしたが、私、小さい頃に捨てられたんです」
唐突な告白に、私はどうしたらいいのか困った。
「生みの親が死に、縁戚に引き取られたんですがね。酷いものでしたよ」
「では」
「縁戚に捨てられ、それから拾われて。拾ってくれた方は良いひとですが――――幼少期に受けたものというのは、中々消えてはくれないもので」
暖かさを求めたくなる。
そうもらしたゼノンは「嫌ですねえ。熱にうなされた独り言だと思って下さいね」と笑った。
そんな過去があったのか。
私の中のゼノン・エルドレイスは酷いものだ。関わる前から名前は知っていたが、どうせ関わることはないと思って気にしていなかった。
その若さで高位神官であり、かつその美貌。人気者なのだろうが、私には関係ないと。
だが―――――。彼と関わりはじめて変わった。色んな人と話すようになったし、何というか、色んな意味で私は有名となってしまった。"あの"ゼノン・エルドレイスか追いかけまわしているやらなにやらと。
私の中でゼノンは、どっからともなく姿を見せるストーカー予備軍だとしても、強い人物だと思っていた。何たって高位神官。噂では枢機卿に推されるのではないかとも囁かれているのだ。
熱で呼吸を見だす彼は今、何だか酷く弱って見えた。