とある神官の話



 賑やかなのはハイネンのラッセルだけなのだが。




「出かけるというよりは、殿堂内を散歩するだけですから」

「ちょ、ちょっと!」



 アゼルが「こら変人!」と呼び止める声を背後に、私はゼノンに引きずられるように室内を出た。

 ノーリッシュブルグは大きな街だ。そしてここの建物は、聖都と同じく歴史的建物の一つである。もとは王族が離宮としていたものだ。
 細部にまでこだわった装飾は、見ているだけでも十分楽しめる。今は冬であるから庭は隠れているが、雪が溶けた後が楽しみであろう「知っていますか?」
 自然な形で手を話したゼノンが口を開いた。



「ここの離宮は、当時愛された王妃のために建設されたのですよ」

「えっと確か……ミゼレット、でしたか?」

「ええ。ハリベヌス一世が最も愛した女性です」



 ハリベヌス一世はノーリッシュブルグでは有名である。"国王"が"教皇"へとなる前の話だ。ハリベヌス一世は、己の妻であるミゼレットを最も愛したのは有名な話だ。それほど身分が高くなかったミゼレットは、ノーリッシュブルグ出身である。
 故郷を恋しがる彼女のために、離宮を建てて、滞在できるようにしたとか。実際、避暑地としてはいいのかも知れない。



「ハリベヌス一世の求婚話は?」



 詳しくない私は、首をふる。
 窓からは大粒の雪が風もなく、静かに落ちるのが見えた。





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