とある神官の話
「有り難く、戴きます」
でも。
彼はその続きを言わせなかった。
「私が勝手にしたことですから」
―――――ああ、本当に。
歩きはじめた彼に、私は少しだけ泣きそうになる。
恋愛をしたくないわけではない。ただ、私は、怖いのだ。私何かが、その好意を受け取るだけの資格はあるのか?
「シエナさんは」
言葉を不自然に切ったゼノンは、珍しく迷っているように見えた。
「と」
「と?」
「間違えました―――その、猊下とはお会いになったことはありますか」
「いえ、ありませんよ」
枢機卿でさえつい最近だというのに。教皇なんてありえない。何故?と聞き返せば「気にしないで下さい」とごまかすように笑う。
彼が、弱っていたあの姿を思い出す。あれは彼自身の告白だった。彼の出生。それは重いものだった。重い。だからこそ、そんなことを私に話さないでと思ってしまう。
私は、そんな人じゃない。愛して!と思う癖にそれが怖い。"暖かさを求めたくなる"とゼノンは言っていた。それは私にもわかる。痛むくらい孤独を感じたとき、手を伸ばしたくなる。
「ゼノンさんは、怖いと思わないんですか」
「どう思います?」
意地悪な聞き方だ。
私は「そりゃ……」と濁す。
私は何に怖いのかを言わなかった。