とある神官の話




 あまり、良い思い出がない。
 封印するように蓋をしたそれは、たまに思い出される。

 誰だって何かしら抱えて生きている。そのくらいはわかっている。誰だってそう。私だけじゃない。痛いのは私だけじゃない。




 ―――――可哀相にね。




 聖都から離れた土地。檻。刃。鮮血。全て見えないふりをして、全てを閉じる。全てを感じなければ楽だから。そう。私は……「シエナお姉ちゃん!」

 そう呼ばれてはっとする。

 入口には雪まみれのカイムが立つ。顔は寒さ故に赤くなりつつある。一緒に!と他の子までもが声を揃えるので笑ってしまう。寒そうな外。
 行こう!とあんな笑顔で言われたら、断れないじゃないか。



「ちょっと待ってね。上着着て来るから」


 早くー!

 そんな声に苦笑。聖都に戻ってきたばかりの私の体には、まだ重く疲労が残る。きっと明日は起きられないだろう。

 上着を掴み、まだ寒い外へと出ていく。





  * * *


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