とある神官の話
「あんの馬鹿男め……」
ひぃ、と短い悲鳴を漏らしたのは書類を運びに来た神官である。それもそうだ。今部屋にいるのはアゼル・クロフォードである。その表情がまるで悪人のように見えたのは気のせいだ、と神官は早々と出ていく。
ミスラ・フォンエルズ枢機卿がノーリッシュブルグへと戻り、半端となった仕事をアゼルに押し付けたのである。君ならやれるだろ?と。
そんな背景があるからか、彼女はかなり不機嫌なのだ。
それに年末年始は忙しい。つい最近祭事が終わったと思ったらこれなのだ。アゼルはだいぶ少なくなった書類を眺め、息をはく「それで?」
「今更どうするつもりなんだ?」
「何が」
「何がって、シエナのことさ」
同じく書類と格闘していたキースはああ、と思い出す。そして苦い顔となった。
「あのハゲ共はシエナを探ってるのが許せない。キースだって知ってるんだろう」
「ああ。だが私は大体の部分しか知らない」
そう。
彼女―――シエナ・フィンデルについては、一部の者しか、彼女の過去を知らないこととなっている。書類に関してもそうだ。ある程度までは書かれているが、深い過去は秘されているのだ。