とある神官の話




 何かに追い掛けられる―――それは、執拗に私を追い詰めていく。怖い。私は呼吸を乱す。苦しい。助けて。私のせいじゃないの。あの女の人が私を殺そうとしたから、私は。私は、でも、殺した?

 黒い何かが私に追いついた。



「シエナ」



 ふっと消えたそれと入れ違うように、深緑の髪がうつる。大丈夫か。また悪い夢を見たか。大丈夫だ。ほら、おいで。
 始めは―――慣れなかった。
 大人も、子供も怖い。あの人は私をどうするつもりなのか。化け物だと思っているんじゃないか。私は、また一人になるのではないか。

 いつ一人になってもいいように、勉強しなくては。




「勉強が好きなのか?」

「……はい」

「――――遊びに行くぞ」




 え?
 私が顔をあげたときには、セラヴォルグ―――父さんはいつの間に揃えたのか、私のサイズに合う上着を片手に「散歩だ」と言った。固まる私をせっせと着替えさせ、動かない私を強引(だったと思う)に抱き抱え、連行した。

 視界が高くなったから、不安になった。ふらつく体を支えるために、父さんの衣を掴めば、父さんが笑う。見てみろ、シエナ。ほら、自然が沢山!
 人なんていなかった。私がいたあの場所には、他にも人がいたけれど、ここは違う。父さんがいる家だけがひっそりとあり、あとは大自然が広がっていた。



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