とある神官の話


「自分に危険が及んだ時は」

「とにかく逃げる、でしょう。父さん」




 厳重に封をされた手紙から、小さな円状の魔法陣が浮かび、やがて手紙を飲み込み、消えた。聖都からの手紙だから、形に残って悪用されぬように。そう説明した父はまた、シュエルリエナ、と私を呼ぶ。



「神官は、とくに"異能持ち"の神官は危険なことが多いのは話したな」



 私は頷く。



「私も、いつ死ぬかわからない」



 ――――わかっている。
 何故、いつも大袈裟に別れを惜しむのか。少しでかけるだけでも父が、私を抱きしめるのか。ただ、行ってきます、だけじゃない。それはいつ死ぬか、ということもあるからだろう。
 いつ死ぬか。いつ戻ってこられなくなるからわかっているから。いくら疲れていても、彼はちゃんと戻ってくる。
 死んでしまえばいい、と思ったことがある。私自身も死んでしまったなら、と。だが今は違う。違うのだ。

 私は、死んで欲しくなどない。




「シュエルリエナ。もし私が死んだとしても、君が困らないようにはしてある。君が困ったら、その力があり、神官に会ってたときには、私の名前を出せば良い――――これはちゃんと覚えておけ」

「……うん」

「それから――――」



 本当に、と私は泣きそうになる。
 父はセンスはずれてるし、過保護っぽいし、やや天然だし料理は残念だけど。



「どこでなにしようと、私は君の父だ。そして、君はなんたって"あの"セラヴォルグ・フィンデルの娘だ」



 本当は、一緒にいけたらよかった。寂しいから。父になにかあったら、私が"力"でどうにかしたかったから。だが父は、待っていろといった。


 私は待つ。


 ―――――父が、帰ってきて「ただいま」と笑ってくれるまで。




  * * *


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