とある神官の話


  * * *



 なるべく色んな色の花で、花束を作った。それは生前の父がよく、死者に寂しくないようにとしていたことだ。不釣り合いであろうが、父ならば笑って許すだろう。

 花束を抱いて進むのは、死者が眠る墓地である。
 その墓地を私は、ヒューズの墓へ訪れた時に一度歩いている。が、あまり良い場所ではない。



「―――――あれ」



 セラヴォルグ・フィンデルの名が刻まれた墓石の前に、すでに誰かがきた跡があった。それは花束というには少ない。なんたって白い雪の上に、リボンを付けた真紅の薔薇が置かれていた。
 今まで花束が置かれていたことはあった。が、リボンが付けられた薔薇だなんて、初めてだ。

 誰だろう。思い当たらない。

 父―――セラヴォルグ・フィンデルが有名なのは私も知っている。なので時折こうして花束があるのは不自然でもない。ただ、誰だろうと思うくらいだ。




「久しぶり。父さん」




 せっかく置かれているなら、と私は薔薇をそのままにした。すぐ近くに己が持ってきた花束を置く。


 今だに、今だに私は後悔している。


 父さんは、私に言った。君のせいではない。シエナのせいではないのだよ。血だらけだった。私も、血だらけだった。誰を救ったというのだろう。ああ、父さん。私は、私はそんな価値があったのでしょうか。
 父さんがいなくなってから、しばらくの間私はどうしたらいいかわからなかった。私は、生きていいのかと。

 あの時、私が死んだら――――貴方は生きていましたか。




「駄目だな、私」




 誰かに縋り付きたくなった。私を知っている人に。
 また、ぎゅっとして欲しかった。シエナ、シュエルリエナって。大丈夫だって―――――ー。


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