とある神官の話
いきなり男の顔が間近に迫ったため、私は逃げきれなかった。喉を捕まれ、身動きが取れず、固まる。男はまるで爬虫類のような顔で、私を頭からつま先まで見つめる。まるで、何かを確かめるように「お前」
「"能力持ち"だな?しかも上玉」
何故。
にやにやと笑う男は、背後で悲鳴を上げた者をちらりと見た。そして「邪魔だ」と発する。女性が甲高い声をあげ、爆ぜた。肉片があたりに飛び散るのを私は見た。
――――燃えていた。
あの日。私が、セラヴォルグに助けられた日と同じ。違うのは、この惨状をたった一人の男が齎したこと。そして、助けは来ないだろうこと。
そして、私が危険だということ。
「ふむ。興味深い」
「は、なして」
「なるほど。あの男が隠すのも理解した」
空いているほうの手が、私の頬を撫でる。その表情は恍惚としているが、私には恐怖しかない。目が、やばい。私を殺そうとした時の、あの女の人と同じ―――やばい目だ。
頬から顎のラインを這うようにして指が動く。私は、守れ、と強く念じた。すると燐光を放ち、男が後方へ吹き飛ぶ!
私はふっと放たれたように体を動かす。とにかく、とにかく離れるべきだ。町へ到着できればいい。なら、と私は走る。
男が何者なのかだなんて、どうでもいい。何かあったなら、まず逃げろ。父は私に言い聞かせた。近隣の老夫婦が気になったが、今は―――。